主催事業

シンポジウム レポート

アサヒグループ学術振興財団30周年記念特別シンポジウム(2015.5.15開催)
「サスティナブル社会をつくる―激変する地球環境にどう向き合うのか―」

公益財団法人アサヒグループ学術振興財団は、平成27年5月15日(金)、財団設立30周年を記念して特別シンポジウム「『サスティナブル社会をつくる』-激変する地球環境にどう向き合うのか-」を伊藤国際学術研究センター・伊藤謝恩ホール(東京大学本郷キャンパス)にて開催しました。

シンポジウムは2部構成で、第1部では、東京大学名誉教授の山本良一氏による“気候の非常事態シナリオと人類の対処”をテーマにした講演を皮切りに、京都造形芸術大学教授の竹村真一氏、(株)レスポンスアビリティ代表取締役の足立直樹氏、(株)グッドバンカー代表取締役の筑紫みずえ氏、フェアトレード名古屋ネットワーク代表の原田さとみ氏による講演を行い、第2部では、「サスティナブル社会への道筋」をテーマに、東京都市大学教授の川村久美子氏をコーディネーターに迎え、講演者全員によるパネルディスカッションを行いました。

  • シンポジウム会場

第1部 講演

山本 良一 氏
「気候の非常事態シナリオと人類の対処」
山本 良一
東京大学名誉教授、東京都市大学環境学部特任教授、国際基督教大学客員教授。
69年東京大学工学部冶金学科卒業。74年同工学系研究科大学院博士課程修了、工学博士。80年東京大学工学部金属材料学科助教授。89年東京大学先端科学技術研究センター教授。92年東京大学生産技術研究所教授。
専門は材料科学、持続可能製品開発論、エコデザイン学、サステナブル経営学。
エコマテリアル研究会名誉会長、環境プランニング学会会長、LCA日本フォーラム会長、日本エシカル推進協議会代表。
【主な著書】『未来を拓くエシカル購入』(環境新聞社)、『宇宙船地球号のグランドデザイン』(生産性出版)ほか多数。

【地球温暖化の進行は憂慮すべき段階に】
人為起源の温室効果ガスの大気中への大量排出により、地球温暖化の進行、それによる異常気象の頻発、突発的で劇的な気候変動の恐れが懸念されています。温暖化により毎日海洋に蓄積される熱エネルギーは、広島型原爆の爆発エネルギーの40万発分と推測されており、これが様々な異常気象や氷床融解の原因となっています。
気候温暖化を語る際にはIPCC(気候変動に関する政府間パネル)という国際機関の要約を前提に話が進むことが多いが、見逃されているのは、IPCCの知識の要約というのは、各国代表がコンセンサスベースで進めたものであり、極めて堅実であると同時に保守的な面があるということ。かなりの数の科学者は、IPCCの科学的知見を根本に据えながら、さらに地球の気候変化の現状を深刻に憂慮して、対策を急ぐべきだと考えています。私もそういう科学者のひとりです。現在我々が直面している温暖化は、数十年から数百年で5℃ぐらい温度が上がってしまう。つまり温暖化のスピードが極めて急激で、ほとんどの生物が追随できないと、今危惧されているわけです。

【エシカルという視点を】
ではどうやってこれを制御するか。国際社会は2℃ターゲットを実質合意しているわけですが、これもかなり困難といわれています。
今このまま新興国あるいは途上国の経済成長が進み、先進国の脱物質化、省エネ化が進まないと共倒れになってしまいます。これは避けなければいけません。どうすれば避けられるか。
私は「エシカル」という倫理的な消費にもっと注目したいと考えます。
省エネと再生可能エネルギーに思いきった投資を行い、エシカル製品、エシカル食品、エネルギーについてもエシカル消費を実践し、現在の苦境を乗り切るべきではないかと考えているところです。

竹村 真一 氏
「地球目線で持続可能な未来を考える」
竹村 真一
京都造形芸術大学教授。Earth Literacy Program代表。
東京大学大学院文化人類学博士課程修了。地球時代の新たな「人間学」を提起しつつ、ITを駆使した地球環境問題への独自な取組みを進める。
世界初のデジタル地球儀「触れる地球」(05年グッドデザイン賞・金賞、中型普及版は2013年キッズデザイン最優秀賞・内閣総理大臣賞を受賞)。2014年2月、丸の内に「触れる地球ミュージアム」を開設。
政府の「復興構想会議」検討部会専門委員に就任。また国連UNISDR(国連防災機構)より「国連防災白書2013」のコンセプトデザイン・ディレクターに指名される。
【主な著書】『地球の目線』(PHP新書)、『22世紀のグランドデザイン』(慶応大学出版会)ほか多数。

【他人ごとではない地球温暖化の問題】
地球温暖化というときに、北極やヒマラヤなどで起きている異常気象、災害、干ばつなどが挙げられると、どうしても我々とは縁遠いなとお感じになる方が多いかもしれないのですが、実は北極やヒマラヤで起きている問題はそんなに遠い世界のことではありません。
北極の温暖化が、実は人口が一番多くて世界のパンかご地帯である中緯度地帯の干ばつとかに大変大きな影響を与えるということに注意喚起したいと思います。
また、ヒマラヤはアジアの大河のほとんどの源流が集中しているところです。黄河、揚子江、メコン川・イラワジ川・ガンジス川、インダス川・・・こうした大河の源流は全部ここに集まっているのです。ここはアジアの水の銀行なのです。ここに降った雪がヒマラヤの氷河、チベットの氷河となり水の銀行となってそれぞれの大河へと。日本人も含めて我々の生活を支える食べ物を作るためには大量の水消費をしているわけですが、中国、インドという20世紀までほぼ自給をしてきた農業大国の、その命綱、水資源の大元ヒマラヤが、高温化によってどんどん氷河が減っているということは、アジアの水銀行が減ってきているということです。

【地球目線で持続可能な未来について考える】
リアルタイムの気象情報や地震・津波、地球温暖化等、生きた地球の姿を学べる「触れる地球」で、地球を見つめなおすことにより、私達は、身近な事象が、全て世界へとつながっていることに気づくことができます。
地球の体温と体調を我々はモニターできる時代です。そういうリテラシーを少し広げていきたいという思いで我々はこういう地球儀を作ったりもしているのです。
リアルに今の地球の問題を捉える。そして地球市民としてそれを共有し、同時にそれに対するソリューションを考えていく。それが今非常に大事になってきていると思います。
私達は地球の危機を語るだけでなく、地球目線で持続可能な未来について考えることがより大切ではないでしょうか。

足立 直樹 氏
「生物多様性=自然資本の危機」
足立 直樹
株式会社レスポンスアビリティ代表取締役。
東京大学理学部、同大学院で生態学を学ぶ。理学博士。国立環境研究所、マレーシア森林研究所(FRIM)を経て、コンサルタントとして独立。
特に「企業による生物多様性の保全」と「CSR調達(サプライチェーン・マネジメント)」を専門とし、アジアのCSRにも詳しい。
企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)理事・事務局長。環境経営学会 顧問、BBOP(The Business and Biodiversity Offsets Programme)アドバイザリーグループ・メンバーほか。
【主な著書】『生物多様性経営 – 持続可能な資源経営 -』(2010年)、『企業が取り組む「生物多様性」入門』(監修・共著 2010年)ほか多数。

【生物多様性の危機】
世界中で多くの動植物が絶滅の危機に瀕しています。たとえば哺乳類では25%、両生類にいたっては41%の種が絶滅が危惧される状況にあります。そして重要なことは、これは珍しい動物や植物が絶滅しそうだという感傷的あるいは倫理的な問題ではないということです。なぜなら、生物多様性とそれが生み出す様々な機能、いわゆる生態系サービスが、私たちの日々の生活やビジネスを支えており、生物多様性には莫大な経済的価値があるからです。最近ではこうしたことを踏まえ、生物多様性を自然資本と呼ぶこともあります。生物多様性を破壊するということは、私たちが依拠するこの莫大な資本を破壊する愚行に他ならないのです。

【生物多様性は私たちの事業、生活を支える資本】
生物多様性の危機は生き物の乱獲や森林破壊などによってひき起こされますが、たとえば森がどのように我々の役に立っているのか。森があることで、そこから木材が得られる、ということはすぐに思いつきますが、それ以外にも様々な機能、様々に役に立つことがあります。森があることによって土砂崩れのような災害が防止されたり、水源が涵養されたり、環境が快適になったり、気候が安定化したり。あるいは私たちはそこをレクリエーションのために使うことができたりと、こうした様々な機能を実は持っています。ただ今までそういうことを私たち意識してこなかったのです。それをきちんと意識して、このありがたみをもっと考えていこうということで、最近はこういったものを「生態系サービス」と呼んでいます。生態系が私たちに提供してくれるサービスだからです。この生態系サービスというのは企業活動にも非常に重要です。木材の資源であったり農産物であったり、綺麗な水とか空気とかを私たちに提供してくれるからです。こういったものがなければいかなる企業活動も行うことができないのです。
生物多様性が毀損されるということは、それが作り出すサービスも無くなってしまうということです。最近は生態系サービスを経済学の言葉で言うとフローであって、生物多様性というのはストックだと捉え、自然の資本、ということで「自然資本」という呼び方をいたします。生物多様性を「なるほど、これは私たちの事業を、あるいは生活を支える資本なんだ」というふうに考えると、何かもう少し重要なものに思えてきませんか。

筑紫 みずえ 氏
「SRI(社会的責任投資)と気候変動」
足立 直樹
株式会社グッドバンカー代表取締役社長。
東京日仏学院およびパリ大学に学び、専業主婦の後、フランスのエンジニアリング会社、フランス系石油メジャーなどを経て、UBS信託銀行に入行、96年営業部次長。
98年日本初のSRI専門投資顧問会社「グッドバンカー」を設立。日本初のSRI(社会的責任投資)型金融商品「エコファンド」を企画。金融商品初のグッドデザイン賞を受賞。2005年、「男女共同参画社会功労者」として内閣総理大臣表彰。
環境省・中央環境審議会委員、文部科学省・科学技術・学術審議会委員、経済産業省・中小企業政策審議会委員など歴任。
【主な著書】『環境経営戦略事典』(共著 産業調査会、2003)「日本と世界におけるSRIの展望-エコファンドおよびCSR調査の現場から-」(日本証券アナリスト協会)ほか多数。

【投資行動が社会を変えていく】
私どもはグッドバンカーという投資顧問会社で、SRI(社会的責任投資)の分野で、企業に対する投資のための調査をやっています。気候変動、環境問題、社会問題などを改善していくために、私たちのお金の流れを変えていくこと、お金をどこにどのように投資するか、私たちのお金の行動というものを変えることによって、企業行動、あるいは政府の行動、そういったものを変えて、地球をとにかくサスティナブルに、持続可能な方向に持って行こうという会社です。

【日本の投資家への期待】
SRIの国際比較ですが、欧州のSRI残高は約952兆円、アメリカで約767兆円、日本を除くアジアが約5兆2,500億円の中で、日本は8,731億円です。これは全世界のたったの0.05%です。これからもたいして増えないのではないかと危惧しています。なぜそうなのか。十数年その理由を考えてきましたが、地球的規模の問題に対する当事者意識の低さ、倫理観の薄さでしょうか。
日本の個人金融資産は1,654兆円。企業年金、公的年金、保険会社の保険準備金、労働組合、宗教団体などが保有するお金を合わせると2,800兆円ぐらいはあると推測しています。それが全世界のたった0.05%しか投資されていない実情があります。企業というのは、結局投資家が「こういう企業活動をしてください」ということを明確に示すことによって変わっていきます。気候変動などの課題解決に向けて、日本のお金がどう動いていくか、投資家の倫理と責任が問われています。

原田 さとみ 氏
「エシカル消費の力」
原田 さとみ
エシカル・ペネロープ株式会社代表取締役 / フェアトレード名古屋ネットワーク代表/タレント)。1987年モデルデビュー後、東海圏を中心にタレントとして活動。パリ留学を経て、エシカル・ペネロープ(株)設立し、名古屋テレビ塔1階にフェアトレード&エシカル・ファッションのセレクトショップ「エシカル・ペネロープ TV TOWER」オープン。
環境・人・社会に配慮した“思いやり”のエシカル理念普及とともに、貧困削減・環境保護・地域貢献につながるフェアトレードを推進。名古屋でのフェアトレードタウン運動に取り組む。
(社)日本フェアトレード・フォーラム理事、JICA中部オフィシャルサポーター。

【フェアトレードとは】
私はフェアトレードを推進する活動をしています。名古屋の栄のテレビ塔1階でフェアトレードショップを営んでおります。フェアトレードは、人、地球、社会に優しい貿易です。アジアやアフリカ、中南米などの女性や小規模農家を始めとする社会的、経済的に立場の弱い方々にお仕事を作り出しています。公正な対価を支払うことで、彼らが自らの力で暮らしを向上し、持続可能な暮らしを保っていくこと。児童労働、貧困問題の解決につながることを目指しています。そしてさらに、農薬や化学肥料に頼らない自然農法や、生産地で採れる自然素材と伝統技術、手仕事を生かした生産によって地域の文化、伝統、環境を守り、持続可能な社会の実現を目指しています。
そして私たち名古屋は「フェアトレードタウン運動」というのを展開しています。フェアトレードを町ぐるみで推進しようということなのですね。

【地域と世界を、そして今と未来をつなぐ“地球とのフェアトレード”】
私は途上国にこの仕事で何度か訪れますが、いつも感じることは、途上国からは私たちはもう学ぶことしかない。途上国を、開発のために環境を崩していって、私たちの利益のために、途上国の自然をもらって、途上国から労働力をもらって・・・ではないと思います。私たちはパートナーシップでフェアトレードをしています。途上国の方々の尊い伝統・技術によって素晴らしい製品が作られ、私たちが助けられています。製品が売れることは彼らの誇りにつながります。
フェアトレードは、身近なお買い物で世界の問題とともに地域の問題、そして地球の問題を解決します。国内でもグローバル社会となり激しい価格競争に職人仕事が消え、小さな企業・商店も少なくなっています。自然の浄化作用を超えた廃棄物を流し続け、山や森、海や川、自然の循環を壊し、水・大地・空気が危うくなっています。世界に対しても地域に対しても地球に対してもフェアでありたいとの思いから、本来は、途上国に対しての貧困削減・国際協力の意義である「フェアトレード」という言葉を、私たちは、自分たちの足元にある地域の問題解決にもつなげ、地域に根ざして、地産地消・地域活性化、国内での立場の弱い方々への仕事の創出など、地域貢献としてフェア(公正)であることを目指しています。さらには、地球・宇宙からいただいている自然の恵みである、水・空気・土・光などに対しても、謙虚に正しく享受し、未来に美しい地球を残せるようなフェアな使い方で暮らしているのかを今一度問うために「地球とのフェアトレード」という理念でフェアトレードを推進しています。

第2部 パネルディスカッション

コーディネーター:川村 久美子 氏
川村 久美子
東京都市大学メディア情報学部教授。米国コーネル大学にて社会学修士号、東京都立大学にて心理学博士号取得。専門は科学社会学、環境社会学。
最近の研究テーマは「科学技術や市場経済への過依存など近代文明に特有の問題についての分析」ならびに「それらを克服して持続可能な社会を実現するためにはどうすればよいか」を明らかにすることである。
【主な著書】『フェアな未来へ』(翻訳・解説、新評論、2013)、『虚構の「近代」』(翻訳・解説、新評論、2008)、『地球文明の未来学』(翻訳・解説、新評論、2003)、ほか多数。

パネルディスカッションでは、パネリストとして講師全員にご登壇いただき、川村久美子氏をコーディネーターとしてお招きして、「サスティナブル社会への道筋」のテーマのもと、来場者から寄せられた質問表からの質問をもとに進められました。
市民として何ができるか、行政や、メディアに期待することなど、課題や今後の展望等について講師各人の思いや意見が交わされました。

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